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こんにちは、谷口です。
最近、リモートエンジニアとして働いている人達や、ノマドワーカーとして働いている人達が増えてきました。逆に言うと、多様な働き方を認める企業が増えてきたということでもあります。
毎日暑い中寒いなか満員電車に乗って、遠いオフィスまで通わずに自宅で仕事できたら楽なのにな……と思ってしまうことは誰でもあると思います。また、仕事によっては「昨日はミーティングがあったけど、今日はPCで独立した作業をするだけだし、出勤する必要なくない……?」と思うこともあるでしょう。
プロジェクト・マネジメントツール「Base Camp」の開発元である37シグナルズは、著書『強いチームはオフィスを捨てる』の中で、オフィス不要論、リモートワークの強さを提示しています。
一方、Googleの元CEOエリック・シュミット氏らは、『How Google Works』で「Googleのオフィスでは、メンバー同士が密集したスペースで一日中会話をし合っているからこそ、イノベーションが生まれる」と言っています。
今回は働く環境について、及びリモートワークについてを考えてみます。
■在宅勤務等に関する実際の事例
◆リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは2015年10月から、在宅での勤務を日数の制限なく選択できるという勤務体制を導入することを発表しました。
この制度は、グループ全体の経営を担うリクルートホールディングスの約400人のほかにも、一部グループ会社を含む約2000人に適用されます。
試験導入は既に6月から始まっており、結果として4割以上が労働時間を減らすことができ、参加者の大半が継続を希望しているそうです。
◆Yahoo!
2013年、米ヤフーが社員の在宅勤務を禁止するという方針を発表し、大きな話題となりました。
CNNなどの報道によると、マリッサ・メイヤーCEOは、「意思疎通と連携を重視する」「机を並べたコミュニケーションが大切である」といった考えからこの方針を採用したようです。
◆エバーノート
エバーノートでの働き方もよく話題に上がります。
エバーノートでは、世界に11拠点あるオフィスのうち、業務の折り合いがつけばどこで働いてもよいということになっています。春・秋は日本が人気だそうです。
また、他にも朝にメールを一本送ればその日は在宅勤務をしてOKだったり、有給休暇の日数が無制限だったり……といった夢のような勤務体制となっています。(もちろん全て社員同士の信頼がベースとなっている制度です)
■実際にリモートワークを実施している人の話
◆Sansan
クラウド名刺管理のSansanは、徳島にサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」を設置しています。
こちらでITエンジニアの團さんは、東京から移住をされてリモートエンジニアとして勤務されています。(以前Tech Compassのイベントでもディスカッションをお聞きしました)
團さんは、こちらの記事でリモートワークに関して、まずはリアルの場で一緒に働き、人間関係をしっかり作ってからリモートを開始した方がいい旨や、何でも一人で抱え込みすぎないことが大切であるということを経験から語られています。
◆ソニックガーデン
アジャイル開発で有名なソニックガーデンの伊藤さんも、渋谷の本社へ兵庫からリモートで勤務されながら、リモートの良いところ・大変なところを語られています。
やはり、大人数でミーティングするビデオ会議だと空気感を共有しにくいということや、仕事とプライベートのメリハリがつきにくいというところを挙げられています。
■リモートワークのメリット・デメリット
◆メリット
◇生活スタイルを柔軟にできる
これが一番のメリットかもしれません。お子さんがいらっしゃる方、またご家族の介護や看病がある方、またご自身の体調など、できれば家にいることができたら……という場合や、朝や夕方に送り迎えなどの用事がある場合にも対応しやすくなります。リモートワークは通勤もほとんどない場合が多く、毎日の通勤ラッシュに遭わなくて済むというのは大きなメリットです。
◇ノイズがない
どういった環境が集中しやすいかというのは人それぞれだとは思いますが、自宅やサテライトオフィスでは、ノイズに惑わされない静かな環境で勤務することができます。
大きなオフィスですと、どうしても多くの人が働いていたり人の出入りも激しかったりしますので、静かな環境で集中してやり込みたい業務の場合は、リモートワークの方が適しているかもしれません。
◆デメリット
◇コミュニケーションが大変
実際にリモートワークをしている多くの方達が、多かれ少なかれコミュニケーションで苦労するという経験をしているようです。
リモートワークをしていると、Skype等のビデオチャットを通じて、打ち合わせやミーティングをすることになります。1対1の面談であれば特に不便はないかもしれませんが、チーム内での打ち合わせやミーティング、特にくだけた雰囲気のものであればあるほど空気感が共有しにくく、苦労することが多いようです。
リモートワークとなると、連絡の多くがメールやチャットによるものになります。今は多くの方法で、遠方にいる人とも連絡を取り合えるようになりました。とはいえその場で対面していないとなると、例えば隣の同僚に「そういえばあの件ってどうなったっけ?」「こういう機能があったらよくない?」と何かのついでに話しかけたり……ということはできなくなり、より気軽な形でのコミュニケーションには弊害が生じることもあります。
その上、直属の上司も近くにいないわけですから、どれだけ働いているかを分かってもらうことや、成果を正しく評価してもらうことに関しても、難しい部分が出てきます。
◇孤独を感じる
コミュニケーションにも関連しますが、一人っきりで在宅で勤務をしていると、孤独を感じてつらくなるときがあるかもしれません。最初は一人の方が気が楽だと思われるかもしれませんし、集中して黙々と作業する場合などはよいかもしれませんが、人とのやりとりが多く発生する業務や、誰かに相談したい場合などは、孤独による不便を感じるかもしれません。
また、ある程度ノイズがある方が落ち着く、周りに働いている人がいる方が集中できる、家では逆に気が散ってしまう……というような人は、リモートよりもオフィスに出勤してメリハリをつけた方が、効率よく勤務できるかもしれません。
■リモートワークで重要になってくること
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◆アウトプットを強化する
「何を作った」「どんな成果を出した」といった結果が、リモートワークだと分かりにくいという場合もあります。
ですので、対面で働いているときよりも、チャットやメールによる報告などのアウトプットを綿密に強化する必要があります。
本来、エンジニアの業務というのは知識集約型で成果物ベースで評価されるべき業務ではあります。しかし、リモートワークの部下を評価することに関しては、まだあまり慣れていないという上司の方も多いのが実情です。連携を取って正しい評価を受けるには、自分から明確なアウトプットを意識していく必要があります。
また、リモートワークを導入しようとしている企業は、「成果物ベースのみで評価する」という評価体制をきっちり敷いてから導入を試みた方がよいでしょう。
◆コミュニケーションに関して
前述のとおり、コミュニケーションをうまくとることは、対面で働いてるときよりも確実に難しくなってきます。テキストによるコミュニケーションが主になり、口頭での雑談やついでの相談などはできなくなります。
リモートワークが失敗する典型的なパターンとして、一人だけにリモートワークをさせてみたら、数カ月後にはその人とうまくコミュニケーションが取れなくなり、失敗してしまった……という事例がよくあります。また、新しく採用した人にいきなりリモートワークをしてもらい、うまくいかなかった……という場合もあるようです。
経験者の方もよく言われていますが、事前に一定期間は対面で上司や同僚と一緒に働いて、人間関係を構築した上でリモートに移る……という方がうまくいくようです。
◇アレン曲線について
物理的な距離とコミュニケーションの関係性については、マサチューセッツ工科大学教授のトーマス・J・アレン氏は、著書の中で物理的な距離とコミュニケーションの頻度には、強力な負の相関関係があることを、計測により初めて明らかにしています。
「アレン曲線」によると、自分から6フィート(約1.83m)離れた席の相手と60フィート(約18.3m)離れた席の相手とでは、前者のほうが定期的にコミュニケーションをする確率が4倍高い。そして別の階や別の建物で働く同僚とのコミュニケーションの確率はほぼ皆無である。
(中略)
実際のところ、距離を縮めるテクノロジーが広まるにつれて、明らかに物理的な近さがより大きな意味を持つようになっている。ベン・ウェイバーの研究では、対面のコミュニケーションとデジタル・コミュニケーションがどちらもアレン曲線に従うことがわかった。
別の研究によると、物理的に同じオフィスで働いているエンジニアは、別々の場所で働いているエンジニアと比べて、デジタル・ツールでも連絡を取り合う確率が20%高かった。緊密なコラボレーションが必要な場面で、同じオフィスのエンジニアがeメールをやり取りする頻度は、オフィスが異なる場合の4倍だった。そして、プロジェクト完了までの期間も前者のほうが32%短かった。(Harvard Business Review 2015年3月号33ページ)
物理的な距離が心理的な距離にも影響を及ぼすということは、心理学でも明らかにされています。その上で、デジタルツールがこれだけ発達しているにも関わらず、デジタルによるコミュニケーションにも物理的距離が影響するという研究結果が出ているのです。
◆働きすぎない
リモートワークを実施すると、仕事とプライベートの境目が曖昧になりがちです。それゆえ、興味のあるシステム作成ややりがいの大きな業務が発生した場合に、つい仕事に打ち込んでしまうということがあります。また、上司の近くにいない分、より分大きな成果を上げなければと思い、頑張りすぎてしまうという場合もあります。
オーバーワークにならないよう気を付けて、自分なりにメリハリをつけて働くことが重要になってきます。
リモートワークでは、この逆パターンの「一人で勤務なんて、仕事をしなくなるのでは?」ということがよく心配されますが、そういった心配が発生するような人はそもそもリモートワークに向いていないので、出社しての勤務を続けた方がよいでしょう。
◆リモートに向いてる仕事、向いてない仕事を見極める
リモートワークのメリット、デメリットを考えると、おのずと向いている業務・向いていない業務も見えてくるかと思います。
例えばアプリケーションにデザイン要素が少ない場合、まず機能から先に作っていこうという場合や、分散的に進めていける場合のシステム開発は、リモートワークでも成立がしやすいと考えられます。
その一方で、デザイナーや営業も絡んで大人数で大規模なアプリケーションを作っていこうという場合などは、対面の方がスムーズに作成を進めていけるでしょう。
エンジニアの業務はリモートワークに向いていると思われがちですが、何でもOKというわけではなく、そのとき必要な業務の特性を見極めることが必要になってきます。
■まとめ
当たり前ですが、リモートワークになったからといって、業務の内容や成果物に求められる質は変わりません。
また、メリットがある分、コミュニケーション等におけるデメリットもあり、出社して対面で勤務をしていた頃とは違う面を意識して働く必要があります。
何より自己管理能力が問われますので、そもそも自己管理に自信のない方はリモートワークには向いていません。
ここ最近は、働く人が仕事場に働き方を合わせるのではなく、各々のライフスタイルに合った働き方を選択できるという場合が増えてきました。
従来は人間がシステムやルールに合わせる世の中でしたが、今後はシステムやルールの側が人に合わせる時代へと変わっていでしょう。
前出の『Harvard Business Review 2015年3月号』には、「生産性は幸福感(ハピネス)で決まる」という記事もありました。
実は、人の幸福感が業務のパフォーマンスに大きく影響することがわかってきた。幸福な人は、そうでない人に比べて営業の生産性が37%、クリエイティビティは300%高い。昇給や昇進に加え、結婚の成功率が高く、友人に恵まれ、健康で寿命までが長い。
さらには、幸福な人が多い会社の一株当たりの利益は高いことも報告されている。
重要なのは、成功した人や健康な人が幸せになるのではなく、幸せな人が成功したり健康になったりする確率が高まるということである。成功や健康は、幸せに10%しか寄与しないことも確かめられている。(Harvard Business Review 2015年3月号53ページ)
人によって仕事内容や職種に合う・合わないがあるように、働き方、働く場所一つをとってもパフォーマンスには影響が出るものです。
自分の生活において何に重きを置くかを考え、今後は各々が自分に合った働き方をより自由に選択できる世の中になればと思います。
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