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こんにちは、谷口です。
仕事柄、いろいろなITエンジニアの方々とキャリアの話をしたり相談に乗ったりするのですが、最近は
- 一部の有名技術者や、有名サービスを運営している人たちに引け目を感じる、自分は何もできていないので…
- キャリアについて考えるのが苦手…会社が用意したキャリアパスに乗ってくだけだし…
- 開発は嫌いではないが、特にやりたいことや目標があるわけではない…でもこのまま今の会社にいていいものか…
といった漠然とした悩み相談を受ける機会が増えてきました。
将来のキャリアに対する不安や「自分はこのままここにいていいのか?」という思いは、誰もが多かれ少なかれ感じていることだと思います。また、明確な目標ややりたいことについても、実際は「そんなの特にないし、給料のために働いてるだけ」という人が多いかと思います。
今回はそんなエンジニアが、自分のキャリアについてどう向き合っていくとよいか?ということを考えていきます。
【目次】
- ■エンジニアのキャリアってどんなものがあるの?
- ■組織は無能な人間で埋まる?ピーターの法則
- ■キャリアに悩む人がすべきこと
- ■技術を貫く場合のキャリアパス
- ■上位エンジニアを目指すことだけが正義ではない
- ■まとめ
■エンジニアのキャリアってどんなものがあるの?
以下は従来のIT企業で一般的なキャリアパスの図です。キャリアに漠然とした悩みや不安を感じている人の中でも多いのが、開発とマネジメント職の狭間にいるような人たちです。
このようなキャリアパスには以下の特徴があります。
- キャリアパスが明確で、勤務を続ければ年功序列的に進んでいける
- プログラミングしたい人も数年でマネジメント職にロールチェンジしなければならない
- ロールチェンジ後は新たなマネジメントのキャリアを一から積んでいく必要がある
- 技術的に優秀な人が、マネジメントも得意とは限らない
従来のキャリアパスの場合、会社がキャリアを用意してくれていることや、それに従っていくと収入も安定して増えていく(これは会社にもよりますが…)というメリットがあります。
しかし、開発をしていたい技術者にはその先のキャリアパスが用意されていないため、数年で開発をやめてマネジメントに徹するしか道がない……といった状況に陥ったりします。
■組織は無能な人間で埋まる?ピーターの法則
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こうしたキャリアのロールモデルについては、教育学者のローレンス・J・ピーター氏が提唱した「ピーターの法則」という社会学的な法則があります。
【ピーターの法則】
1.階層社会で、人は能力の限界まで出世して、有能な平社員は無能な管理職になる
2.時が経つにつれて、みんなが出世する。その結果として、無能な平社員は、そのまま平社員の地位に落ち着く。そして有能な平社員は、無能な中間管理職の地位に落ち着く。最終的に全ての階層が、無能な人間で埋まってしまう。
3.その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間(出世する前の有能な平社員たち)によって遂行されている。
というのがピーターの法則です。
日本語で「無能」と言ってしまうと少々乱暴な感じがしますが、会社のキャリアパスに従って進んでいくと「必要なスキルや資質を持ち合わせていなかったり、不得意だったりする人」も、その職務に就かざるをえないというパターンは多いと思います。
優秀な若い技術者がPMになったとき、マネジメントもうまくできるかというと、そうでもない…本人も開発は好きだけどマネジメントがやりたかったわけではない…というのは、従来のキャリアパスにおいてよくあるパターンです。
■キャリアに悩む人がすべきこと
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そうは言っても、「同じ会社にいたらいずれロールチェンジが必要になるのは仕方ないじゃん、どうしたらいいんだよ」と思うかもしれません。
「マネジメントに回っても構わない」「今の会社が安定しているからずっといたい」という、今のキャリアパスに特に不安がない人はそのままでいいかと思います。
ただ、「ロールチェンジしたいわけではないけど、今の会社では拒否できないし…」「このままでいいのか悩んでいる…」と不安を感じている人は、少し外向きの目線を持っておいた方がよいでしょう。
◆社外でも通用するようにしておく
現状に満足していても、今の会社が絶対に傾かないとは限りませんし、担当プロジェクトがなくなる可能性やお客さんが変わる可能性はそれ以上に高いでしょう。ピーターの法則で言うところのまだ出世の余地がある若い人たちは、出世した後でそのポジションの職務に向いていないと気付いたり、望まないロールチェンジを余儀なくされることがあるかもしれません。
何にせよ、キャリアの方向性や会社を変える必要が出てきたときに、スムーズに望み通りのキャリアを積んでいくためには、社外でも通用するように自分の「市場価値」を把握しておくことが大切です。
30代後半~40代ぐらいになって、初めての転職を考えている…という人は、「社内評価と市場価値のギャップに気づいていない」ことが多いです。一つの会社に長くいて、年功序列で出世・昇給をしてきた人は、社内評価としてはそれなりの地位にいるわけですが、詳しいスキルや知識を教えてもらうと、自社独自の業務経験ばかりが目立ち、他社でも通用しそうなスキルがほとんどない……という場合があるのです。
もちろん、今までの業務経験を通して汎用的なスキルを身につけた人も多いのですが、それに気づかず、社内では評価されていた独自のやり方ばかりをアピールしてしまいがちです。
自社から一歩出ると、評価をするのは今までの自分を知らない他人です。職種を問わず言える話ですが、自分のスキルや経験を定期的に棚卸しして、「今の自分にどんな価値があるか」を一歩引いて把握しておくとよいでしょう。
そして、「市場価値」を上げるためには、マネジメントなら一般的な組織理論を学んでみるとか、開発なら最近流行っている技術を把握しておくとか、外向きの目線を持っておくことが重要です。
◆いろいろな選択肢があることを知っておく
自社の業務しか経験したことがなく、狭い世界に閉じこもっていると、つい外に出れば広い選択肢があるということを忘れてしまいます。
仕事に不満がある方の中には、「仕事やキャリア不満があるけど、自分ではどうしようもないし…」と思い込んで不満を抱えたままだったり、転職活動の経験もないのに「どこに行っても同じだし…」と言ったりする人もいます。
そういった人たちは、「外の世界にはいろいろな選択肢がある」ことを知っておく必要があるでしょう。
同じ会社にずっとキャリアを積んでいく道もあれば、自社製品を開発している企業で技術系のキャリアに進む道もあります。お客さんの会社に移っちゃう人も多いですし、研究職について技術を極め続ける道もあります。会社も、有名大企業から小規模スタートアップまで、業務範囲は全然異なります。生活的に問題がなければ、フリーランスになることも自分で起業することもできますし、エンジニアを辞めて全然違う仕事を始めてもよいわけです。(ちなみにどのキャリアも珍しい選択肢ではありません、私の知り合いだけでも全て経験者がいます)
転職をする・しないは別にして、エンジニア職だけで見ても本当にいろいろな環境や企業といろいろなキャリアがありますから、「現状以外にもたくさんの選択肢がある」ことを知っておくのは非常に重要なことです。
同じ会社でずっと同じ仕事をし続けていると、ついつい目線も考えも内向きになってしまいがちです。例えば、ときどき求人票を斜め読みしてみたりするだけでも、「こういう会社もあるんだなー」「今はこういうエンジニアが求められてるのかなー」といったことがわかるかと思います。
■技術を貫く場合のキャリアパス
従来のようにマネジメント職として上がっていくだけでなく、企業によっては下記のようなエンジニアとして上にいくキャリアパスもあります。(企業によってキャリアパスの形式は違うと思いますので、あくまで一例として…)
このようなキャリアパスには以下の特徴があります。
- 年功序列ではない。
- 会社側で明確に段階的なキャリアパスが用意されてるわけではないため、自分で自分のキャリアを考えないといけない。
- マネジメント職ではないと言っても、上位職になってくるとチームリーダーや技術マネジメントやサービス企画に関わることも増える。(開発だけをしていればOKというわけではない)
業界内の有名エンジニアや、有名サービスを作って輝かしい活躍をしている人たちは、技術職としてのキャリアを積んでいる方が多いかと思います。
卓越した技術を持った有名エンジニアや、有名サービスを運営して大きな利益を上げている人達の活躍は華々しいものに見えます。しかし、会社がキャリアを用意してくれるわけではない、自分で積極的に行動し続けない限り何者にもなれないような環境に自分を置き続けるのは、かなり大変なことです。
■上位エンジニアを目指すことだけが正義ではない
すごい人たちの活躍を見ていると「ああいうすごい技術者を目指さなければ…」「それに比べて自分はだめだ…」と焦りを感じたり、それに疲弊してしまうこともあるかもしれません。
最近は「特にやりたいことや目標がないんですけど、だめですかね…」という相談を受ける機会が増えましたが、現実的に考えても、そういう人の方が多いだろうなと思います。
ただ、一方で現在華々しく活躍しているエンジニアの方とお話をしていても、実は「最初からここを目指していたわけではなく、気付いたら流れついていた」と言われることが多いのです。
神戸大学大学院の金井壽宏教授は「キャリアにおいて大きな方向づけは必要だが、偶然の出会いや予期せぬ出来事をチャンスとして柔軟に受け止めるために、あえて状況に“流されるまま”でいることも必要である」とする「キャリアドリフト」という考え方を提唱しています。
仕事をしていると、最初は嫌だと思っていた業務が実はやってみたら楽しかったとか、自分では当たり前にできることが他人から見たらすごいスキルだったとか、何となくやった仕事ですごく感謝されて意外にやりがいを感じたとか、思わぬ出来事やチャンスを通じて可能性が広がる場合もあります。
もちろんやりたいことや目標があるのは素晴らしいですが、それがないからと言ってだめなわけではありません。そもそも、すごい技術者になることを目指し続ければ全員ハッピーになれるかというと、そうではないですよね。
先日、転職してしばらく経つエンジニアの方にインタビューをしていて「前職で目の前のことを一生懸命やり遂げてきた経験が今でも役に立っている。もし『やりたいことはこれじゃない』とか思って適当にやっていたら、どこにも採用してもらえないレベルの人間になっていたと思う」と言われたことがあります。
やりたいことが決まっていなくてもいいので、まずは自分の資質を最大限に発揮して、与えられた仕事をやり遂げていくことが、一番今後のためになり、自分の価値を上げてくれるのだと思います。
■まとめ
転職さえできれば必ずしもキャリアアップできるわけでもなければ、幸せになれるわけでもありません。転職活動も簡単なことではありません。
ただ、今後のキャリアに漠然とした不安を感じる人は、見つからない目標を探し続けるよりも、外の世界にどういう選択肢があるかを知ってみること、自分の市場価値を客観的に把握すること、そして与えられた目の前の仕事に精を出すことが必要なのだと思います。
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