Photo by Stavros Charakopoulos
こんにちは。倉内です。
IT業界の転職市場は依然として売り手市場が続いており、エンジニアの採用に苦労されている担当者の方も多いのではないでしょうか。
先日「「中途入社組がすぐ辞める」日本企業の深刻実情」という記事が話題になりました。
IT業界も例外ではなく、ようやくエンジニアを採用できたにもかかわらず、入社後に短期間で退職されてしまったというケースは頻繁に見られます。
そこで今回は、日本でも導入企業が増えつつある「オンボーディング」という取り組みに注目し、中途採用したメンバーの短期退職を防ぐことはもちろん、早期に組織の一員として活躍してもらうために企業は何をすべきか考えていきたいと思います。
中途採用者が定着しない原因
企業が中途採用をおこなう理由は何でしょうか? 退職者が出て急いで欠員を補充したい、事業を拡大するので人を増やしたいなど、いずれにしても「即戦力」を求めて、という場合が多いですよね。
入社初日に新しく迎えたメンバーのPCや座席が用意されていない…なんてのは論外ですが、「即戦力として採用したのだからお手並み拝見」と放置したり、遠巻きに見たりする企業は珍しくありません。
会社に対する印象の良し悪しは入社後1ヶ月で決まると言われていますから、こんなやり方では新しいメンバーを早期に戦力化するどころか、モチベーションを下げ退職に追い込む可能性があります。
「さあ時間がないんだ。早く超サイヤ人になって!」*1という気持ちは分からなくもないのですが、どんなにすごい経歴・経験・スキルを持っている人でも、新しい組織やチームで疎外感を感じながら高いパフォーマンスを出せる人はほとんどいません。
新卒・中途といった雇用形態にかかわらず、新しいメンバーが早期に組織・チームになじみ、成果を出すためにはフォローアップが必要です。ここで組織全体で取り組むオンボーディングの出番です。
新メンバーの受け入れはオンボーディングで
オンボーディングとは
オンボーディングは「飛行機や船に乗っている」という意味の「on-board」に由来する言葉です。
人事・採用の用語としては、新卒・中途で採用した新入社員が帰属意識を持ち、組織の一員として早期に成果を出せるようサポートする仕組みのことを言います。オンボーディングは新卒や若手社員だけではなく、リーダーやマネジャークラスの社員も対象です。
具体的にはのちほど導入企業の施策を取り上げて紹介します。
なぜオンボーディングが重視される?
成長中のスタートアップ企業では新しいメンバーが次々入社し、社員数が倍増するということも珍しくありません。そのため新しいメンバーがどれだけ早く組織に馴染み、力を発揮してくれるかが企業の成長を大きく左右するといえます。
オンボーディングを導入するメリットは大きく以下の3つが挙げられます。
- 新しいメンバーを短期間で戦力化する
- 既存社員を巻き込んだ取組みのため組織の一体感・結束力を高める
- 早期退職を防ぎ採用コストを抑える
特に最初の3~6ヶ月が重要です。そのころになると仕事内容をひと通り覚え、入社直後の緊張や希望にあふれた気持ちも落ち着き「自分は組織になじめているか」「この転職は成功だったか」と少し冷静に考える時期だからです。
オンボーディングは、新入社員がすばやくチームに馴染み即戦力として活躍してくれるという目的があると同時に、企業のミッションやビジョンへの共感、社員との信頼関係の構築など帰属意識を高めることも目的としています。
マネージャーへの動機づけが重要
新しく入社した社員の上司はオンボーディングにおいて最も重要な人物の一人です。上司のサポートが成功を左右すると言っても過言ではありません。
米国のある研究では、新入社員が新しい組織へすぐ適応できるか、なかなか適応できないかは上司のサポートのやり方に関係すると言われています。また、別の調査によると、上司のサポートが新入社員の仕事の満足度や給与に影響することも分かっています。
Your New Hires Won’t Succeed Unless You Onboard Them Properly
しかし、マネージャーは多忙であることが多いので、新メンバーへのサポートに時間を割くのが難しい場合がほとんどです。オンボーディングを推進する担当者(人事など)はその点にも気を配る必要があります。
オンボーディングの実践
気をつけたいポイント
オンボーディングを導入するにあたって気をつけたいポイントをお伝えします。
- オンボーディングの目的(新メンバーが企業文化を共感・理解する助けになる、早期に戦力化が望めるなど)を既存社員に周知する
- 受け入れ部門やチームだけではなく組織全体で準備・歓迎するマインドを持つ
- 実施後は評価や効果検証をおこない事業フェーズなどに合わせて内容を見直す
特に「組織全体で」というのが大切で、主導は人事部や受け入れ部門であっても会社としての取り組みだと認識する必要があります。
具体的なオンボーディングプロセス
Photo by Karen Roe
Googleの取組み
Googleでは新しいメンバーを受け入れるチームが主体となって迎え入れるための準備を進めます。
入社初日にGoogleでの働き方、プロダクトのこと、今後の戦略など会社の大きな流れの説明があり、そのあと個人の業務にブレークダウンしていくそうです。担当業務についてはもちろんですが、それだけではなく会社の仕組みや社風、価値観などを学ぶことが大切という考え方にもとづいています。
また、Googleでは以下の5つのチェックリストが新メンバーの上司に配属の1日前に送られます。
- 仕事の役割と責任について話し合う
- メンター役となる先輩社員をつける
- 新入社員が社内でのネットワーク構築するのを支援する
- 最初の6ヶ月間は毎月面談(Check-In)を実施する
- 気軽に話せる環境をつくる
これらはシンプルですがとても重要な内容となっています。
Googleの社内調査によると、しっかりと受け入れ準備がされた状態で入社初日を迎えた場合、新メンバーの入社後3カ月のパフォーマンスが30%上がるということです。
Twitterの取組み
Twitterでは"Yes to Desk"と呼ばれる、採用のオファーを受けて(Yes)から、当日席につく(Desk)までのプロセスをきちんと整えておく仕組みがあります。
PCのセットアップやメールの設定はもちろん、席には歓迎の証としてTシャツとワインが置かれているそうです。席は仕事上関係の深い同僚の隣に配置されます。
入社当日の朝食はCEOと一緒にとり、そのあとオフィスツアーが実施されます。月に1度は企業文化の理解を深めるために経営陣との交流があり、他の部署の仕事を学ぶ機会も用意されています。
これらは新しいメンバーが入社初日を迎える前に、「新入社員が加わったことをみんなが歓迎し、成功させるためにはどうしたらいいか」をマネージャーが考え計画します。
Kaizen Platformの取組み
同社のSRE Group Managerの方が取り組みを公開してくださっていて、記事を読んだだけでも非常にきめ細かく、手厚いオンボーディングプロセスということが分かります。
Kaizen Platformで行っているOnboardingプロセス - Kaizen Platform 開発者ブログ
オファー時、入社前、入社後1週間、…入社後3ヶ月といったように時期でやることと担当者が明記されています。「期待値の調整、振り返り、コミュニケーションの機会を増やす」という点は新しいメンバーを受け入れる際にとても重要です。
入社した人に「自分を知ってもらう努力」をしてもらうとあるように、入社した人が自らオンボーディングプランを作成し、メンターやCTOと適宜すり合わせや振り返りをおこなうというのがよいですね。
paiza(ギノ)の取り組み
弊社の事例で恐縮ですが、paiza(ギノ)も新しいメンバー受け入れ時にはオンボーディングを実施しています。
最近入社したエンジニアが「新人へのサポートが手厚い…」とつぶやいてましたが、私も2018年8月に転職してきて実感しています。
具体的には
- 入社後1ヶ月くらいのスケジュール提示(先を見通せる安心感)
- 社長と各部門長から事業内容・方針・数値目標などの説明と質疑応答
- 業務で必要になる情報の提供(Slackの使い方、開発環境の構築・設定、チーム開発における決まりごと、オフィスグリコの買い方、入退館時のルールなど)
- 直属の先輩からの業務ロープレ(OJT的なもの)
- 歓迎ランチの実施(少人数グループで日替わり、全員と対面コミュニケーション)
- 定期的な人事面談(2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月…)
- 週次で上長とミーティング(これは既存社員も含めて全員)
などなど…
他にも国内外問わずオンボーディングを導入している企業は増えてきています。
転職経験がある方は分かると思うのですが、転職直後は自分の居場所がないと感じることや、自身に期待される業務や成果が不明確という状態はすごく不安です。
そのためオンボーディングでは、いきなり半年後や1年後の大きな(もしくは難易度が高い)目標を掲げるのではなく、まずは短いスパンで小さな成果や成功体験を積み重ねて、仕事を覚えながら組織の中で自身の価値を高めていくということを大事にしてください。
このようにオンボーディングで迎え入れる環境を整えることで新しいメンバーの不安が早期に解消され、業務で成果を上げることに集中できます。
まとめ
中途採用したメンバーの短期退職を防ぎ、早期戦力化のためにはオンボーディングが欠かせないという話をしてきました。
オンボーディングを成功させるためには、採用担当や新しいメンバーを受け入れる部門だけではなく、組織全体で取り組むことが非常に重要です。
初めてオンボーディングを導入する場合、企業にとってコストが増加するのではと思うかもしれません。
しかし、中途採用者が早期に戦力になってくれるということは、組織にとっての利益になることはもちろん、長い目で見てみると帰属意識を高め短期退職を防ぐことにつながります。
特にエンジニアはリファラルで転職することが多いので、社員が「いい会社だよ」と人に紹介したくなるような企業にいい人材が集まります。(つまり、「あの会社はちょっと……」と言われてしまうとどうなるかは…分かりますね。)
もし中途採用した人がなかなか活躍できず、短期間で退職してしまうことが続いているようであれば、組織としての受け入れ体制を見直す必要があるでしょう。
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<参考リンク>
- Why Google’s Onboarding Process Works 25% Better Than Everyone Else’s
- Google、メルカリも採用。新メンバーのパフォーマンス&定着率を上げる「オン・ボーディング」 | 未来を変えるプロジェクト by パーソルキャリア
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*1:孫悟空がタイムリミットの迫る中、トランクスと悟天にフュージョンの修行をつけるときに言ったセリフ