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こんにちは。倉内です。
ITエンジニアを対象にしたアンケート調査で、今の職場環境や仕事内容に不満を感じていると答えた人が挙げた理由でもっとも多かったのが「仕事上の評価が正当でないと感じるから(給料が安い)」という結果が出ています。
でも正直なところエンジニアの評価って難しいですよね…。技術力で測るといっても、「そもそも技術力とは?」に対して簡単に答えを出せるなら苦労しません。
エンジニアの仕事は短期間で結果が出ないものも多いですし、コードが書ければ業績や経営課題への貢献度を一切考慮しなくていいのかという悩みもあります。ましてや頑張り度なんかで測れるものでもありません。
ただ、最近はさまざまな企業が評価制度を公開していて、技術力をどういった定義で評価しているか、制度としてどのような工夫がされているか…などを知ることができます。
そこで今回は評価制度を公開している企業をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。なお、記載内容は2019年5月10日時点に調べたものであり、最新情報ではない場合もありますのでご了承ください。
エンジニアに特化した評価制度がある企業
【VOYAGE GROUP】
メディア事業とアドテクノロジー事業をおこなう企業で、メディア事業としては「ECナビ」がよく知られています。従業員数は317人 (2017年9月末時点)です。
どのような制度か?:
- 2011年にエンジニアによるチームを超えた「技術力評価会」という取り組みを開始
- 半年に1度実施し、評価結果は昇格に大きく影響する
- 被評価者は2人の評価者に対して1時間半のプレゼンを実施する
- 点数評価・五段階評価はしない、文章で書いて文章で理解してもらう
- 全体ふりかえりとして改善案を議論する場も設定されている
制度の狙い・重要なポイント:
- エンジニア(グレードの高いエンジニア)からの評価で納得感を高める
- ビジネス面だけでなく、能力面でもしっかりと評価できる制度を作る
- 評価軸や制度は改善し続ける
評価制度についての出典:
エンジニアの技術力評価は難しい? - 7年間運用してきた技術力評価制度の改善の歴史 ‒ / technology assessment 2018 04 25 - Speaker Deck
VOYAGEのエンジニア評価制度ってどんな感じなのか25分で再演 / Show VOYAGE GROUP Tech Assessment - Speaker Deck
補足:
出典に載せた1つめのスライドは非常に話題になったのですでに読んだ方も多いかもしれません。スライドには制度改善のコツや失敗例も書かれています。
【GMOペパボ】
日本最大級のハンドメイドマーケット「minne」やレンタルサーバー「ロリポップ!」など、さまざまな個人向けインターネットサービスを提供する企業です。従業員数は278名(2018年12月末時点)です。
どのような制度か?:
- エンジニアの職位は立候補制で(CTOとチーフエンジニア除く)、上位職種と面談をして一次評価を受ける
- 立候補者は自身がなぜその職種にふさわしいのかを、エンジニア評価制度のリポジトリにプルリクエストを作成し、会社のエンジニアの能力の基準に沿って主張する必要がある
制度の狙い・重要なポイント:
- エンジニア職位制度立候補資料だけでなく、業績考課、グレード考課(つまり評価結果やフィードバック)はすべてオープンで全従業員が閲覧可能
- 情報公開を重視し、評価する側・される側ともに客観性を意識する必要がある
評価制度についての出典:
ペパボのエンジニア文化を醸成するエンジニア評価制度 - ペパボテックブログ
エンジニアの制度・働き方 | GMOペパボ株式会社 採用サイト
補足:
評価結果もオープンにしていると聞くとちょっと驚いてしまうのですが、以下の部分を読むと非常に納得でき、重視している点が明確になっているなと感じました。
我々は時代とともに技術トレンドが変化するWEB業界において、常に自分自身をアップデートし、変化していく必要があり、自身が優れたエンジニアであると主張するに足りうる実績を、客観性のある内容で生み出し続けることこそが必要であることのように思います。
【クックパッド】
料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」を運営している企業です。従業員数は476人(2018年12月時点)です。
どのような制度か?:
- 2017年夏からテックリードを選出してエンジニアのスキルアップや評価に関わるようにした(以前はエンジニアを評価する上長がエンジニアではないケースがあった)
- テックリードは技術も分かるメンター的役割でその人が評価をすることでズレがない
制度の狙い・重要なポイント:
- テックリード制を導入する前は現場の面倒見のいいシニアエンジニア頼みになっていたがひとつの役割として確立された
- 業績だけによらない専門スキルの評価や高度な専門性をつけるための成長支援をする
- 社員ひとりひとりが「自考自動」し、マネジメントが必要ない組織を目指す
評価制度についての出典:
Development Policy | 開発の姿勢 | クックパッド株式会社
エンジニア評価のズレと育成課題を解消!クックパッドがテックリード制を導入した理由 | SELECK [セレック]
補足:
「エンジニアの上長がエンジニアでないため妥当な評価がしづらい」という課題を抱えている企業は多いのではないでしょうか。クックパッドの取り組みはその課題に対しての一つの解決策といえます。
【はてな】
「はてなブログ」や「はてなブックマーク」などのサービスの運営をおこなっている企業で、従業員数は127名(2018年7月時点)です。
どのような制度か?:
- 新卒・中途・入社年数にかかわらず、エンジニアには必ずメンターが1人つく
- 評価は「成果」「行動スキル」「専門スキル」の三つの軸を持つ
- メンターは評価点をつけるだけでなく、定性的なフィードバックもおこなう
制度の狙い・重要なポイント:
- メンターによって「専門スキル」という観点でメンティーの専門性を適切に評価する
- 目標の達成状況は期末の評価には織り込まない
評価制度についての出典:
はてなのチーム横断のエンジニアメンター制度 - Hatena Developer Blog
エンジニア特化の評価制度はない企業
【カヤック】
さまざまなユニークな取り組みで知られている「面白法人カヤック」。従業員数は409名(2018年12月時点)です。
どのような制度か?:
- 「運」「社員の相互評価」「上司の評価」の3つの要素で決定
- 「運」:給料日前に全社員がサイコロを振り「基本給×(サイコロの出目)%」を給与にプラスα
- 「社員の相互評価」:同じ職種同士の相互投票によるランキング結果を月給に反映
- 「上司の評価」:上司の主観により賞与の分配を決定
制度の狙い・重要なポイント:
- 運、社員同士の公平な評価、上司の主観という3要素でバランスを取っている
- すべて定量評価である
評価制度についての出典:
制度・行事 | 面白法人カヤック
補足:
詳しくは出典に記載した公式サイトにあますことなく公開されていますので、ぜひ読んでみてください。
【ZOZO】
「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(旧:スタートトゥデイ)は、エンジニア求人に対する質問に対して社長や社員がTwitterで直接回答したことが話題になりました。
エンジニアはZOZOテクノロジーズという100%子会社に所属しており、従業員数は約250名(うち約150名がエンジニア(TECH BLOGより))です。
どのような制度か?:
- エンジニアもデザイナーも営業も全職種共通の軸で評価される
- 基本的には基本給、ボーナスともに一律同額+各種手当(ただし、職能給が別に設けられており、そちらは給与テーブルが存在する)
制度の狙い・重要なポイント:
- 「いい人」を採用することが強いチームを作る
- 基本給の一律同額には社員がお互いを悪く言うのを避けたいという思いがある
- スキルや実績に見合った適切な報酬を払うスタンス
評価制度についての出典:
なぜスタートトゥデイはエンジニア用の評価基準を持たないのか? | キャリアハック
※上記の記事は2014年のため現在の制度とは異なる可能性があります。
補足:
ZOZOはエンジニアの採用について、「『技術力に長けた人』だけを採用したいとは思っていません。実際、一番重視するのは『いい人』かどうかというところ」と言っていて、競争より協調を重んじる組織の文化が評価制度にも影響していると思われます。
【メルカリ】
提供しているサービスだけでなく、新卒エンジニアの9割をグローバル採用するなど何かと話題になることが多いメルカリ。従業員数は1140名(2018年6月時点)です。
評価制度はエンジニアに特化していないというより、人事評価システムを内製しているため自社に最適化したものになっているといったほうが正しいかもしれません。
どのような制度か?:
- 「絶対評価」「ノーレイティング」によって個人のパフォーマンスを最大限に評価
- 「グレード」と「マネジメント職」の切り分け
制度の狙い・重要なポイント:
- エンジニア数が急速に増えたことで生まれた組織のひずみを改善する
- グレードやレイティングによって昇給できるはずのメンバーを適正に評価できない状態を避ける
- 優秀な人材を青天井で評価したいという思いから独自システムを導入
評価制度についての出典:
日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏 | mercan (メルカン)
メルカリがトップクラスのエンジニアを投入して「人事評価システム」を内製化したワケ - エンジニアtype | 転職type
補足:
2015年に20名ほどだったエンジニアが3年で約350名になったということで、さまざまな試行錯誤を経て評価制度や評価システムを作り上げてきたことと思います。
運用して見えてきた課題を解決するために既存の制度は変えていく必要があると述べています。
【サイボウズ】
「kintone」「サイボウズOffice10」など企業向けアプリケーションを提供しているサイボウズは、「市場価値」を人事評価制度に取り入れていることで話題になりました。従業員数は659名(2018年12月末時点)です。
どのような制度か?:
- 一般的な企業が設定しているような「給与テーブル」がなく「その人の市場価値」で給与が決まる
- 社員が自分の市場価値を把握し給与交渉ができる
制度の狙い・重要なポイント:
- 働き方の多様化で働く条件が違いすぎて社員同士を比較するのが難しいため「あなたが転職したらいくら?」という市場価値で給与を決めることになった
- 基準がなく全員バラバラのため自社アプリを使って入社時の給与や希望給与を管理
- 新しい制度を導入する場合「まずは運用してみて、アップデートしていく」を大切にしている
評価制度についての出典:
ここまで見せていいの?──サイボウズの「給与評価」と「キャリアパス」の裏側を、人事が赤裸々に語る | サイボウズ式
補足:
「市場価値」で給与が決まるというのはシビアな面もあり、上がる人はどんどん上がるが、下がっていく人も出てくると述べられています。
100人100通りの働き方があると認めているサイボウズでは、給与もキャリアパスも自分自身で決めていく必要があります。
評価制度自体存在しない企業
【ソニックガーデン】
オフィスをなくし、フルリモート勤務が可能な「納品のない受託開発」を実現しているソニックガーデン。先日某TV番組では「リモート飲み会(リモ飲み)」が紹介され話題になりました。従業員数は33名(こちらの記事に基づく)です。
取り組みの狙い・重要なポイント:
- エンジニアの仕事は単純労働ではなく、また、プログラムの成果は単純な量では測れないため、目標設定も評価も非常に難しいという課題感があった
- 現在は「管理職のいない組織」なので、そもそも評価をする人がおらず結果的に人事評価がない
- 給与は入社期間などで多少の差異はあるが、基本的にはほぼ一律
- 賞与は山分けする考え方をベースにした報酬制度
評価制度をなくした結果:
- 評価される側は「会社からどう評価されるか」を気にしなくなり目の前のお客さまにだけ集中できるようになった
- 評価する側の負担(心理的にも工数的にも)がなくなってストレス軽減になった
取り組みについての出典:
給与は一律、賞与は山分け、評価がないのに働く会社 【連載】「遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作りかた」(5)|FINDERS
「管理」と「マネジメント」の違い〜成果をあげる手段が変わった理由 | Social Change!
【ゆめみ】
スマートフォンアプリやWebサイトの開発・保守、デジタルメディアコンテンツ運用などを手がける企業で、従業員数は約160名(2018年5月時点)です。
取り組みの狙い・重要なポイント:
- マネジメントの役割をそのものを無くし上下関係がまったく存在しない組織
- 評価をおこなわないため給与は自己申告制(2019年4月からは自己決定制)
- 自己申告でその人の市場価値より高い金額が出てきても追求しない(ただし1億とかの異常値は弾く仕組みになっている)
評価制度をなくした結果:
- 価値のある人が妥当な給与をもらえるような制度に近づいた
- 5年以上運用していて、自立を信頼する経営土台があるが故にできている部分もあるので、他の企業が一足飛びにこの制度に移行するには難しい部分もある
取り組みについての出典:
給与は自己決定・人事評価やノルマはなし|Ray Kataoka|note
メンバーの心理的安全性を保ち、成長できる環境を本気で目指す。ゆめみの組織改革 - Qiita Zine
番外編
【Netflix】
アメリカのオンラインDVDレンタル・映像ストリーミング配信事業会社です。従業員数はちょっと情報が古いですが2017年時点で5400名です。
以下の本でよく知られているとおり、Netflixは「人事考課と報酬制度を分離し、業界最高水準の給料を払う」と述べている企業です。

- 作者:パティ・マッコード
- 発売日: 2018/08/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
Netflixは仕事をするチームは「家族」ではなく「プロスポーツチーム」のようにハイパフォーマーだけで構成されることが望ましいとしており、優秀な人材のみを採用するというスタンスです。
入社後に何らかの理由で成果が出せない人へは解雇手当をはずんで退職を勧める…と聞くとちょっと冷たい気がしますが、「会社が成功するためには、チームがどんな業績を挙げる必要があるかということだけを考えて…」とあり、一貫した強い組織を維持する姿勢がうかがえます。
よって在籍年数や役職での評価はおこなわず、その人の市場価値だけで判断をしています。そのためときどき他社へ面接に行くのを勧め、「どんな金額でオファーもらえた?」と聞かれることがあるようです。
解雇に関する法律など日本とは事情がいろいろと違いますが、組織やルール作りには参考になる点も多いと思います。
まとめ
今回紹介できたのはほんの一部の企業ではありますが、各社さまざまな取り組みをしていることが分かりました。
多くの企業が「過去の失敗から試行錯誤した結果導き出した答えである」という点が共通しており、やはり一朝一夕で自社に合った完璧な制度が作れるわけではないと言えます。
同時にどの企業も制度運用後に出てきた課題は解決に努める、制度の内容・基準を常にブラッシュアップするために振り返りや検証を実施すると述べており、組織の成長などに合わせて柔軟に対応できることが大切でしょう。
また、成功している企業のやり方をそのまま持ってきてもうまくいきません。自社の事業内容や文化、従業員の性質などに合わせてよいやり方を考える必要があります。
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