paiza開発日誌

IT/Webエンジニア向け総合求人・学習サービス「paiza」(https://paiza.jp ギノ株式会社)の開発者が開発の事、プログラミングネタ、ITエンジニアの転職などについて書いています。

ITエンジニアの価値を貶める『人月商売』の功罪

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Photo by oatsy40

f:id:paiza:20130918201254g:plain今回のpaiza開発日誌は片山がお送りします。

SIerについて語られる際に「人月商売」についての問題点が良く取り上げられますが、「人月商売」がエンジニアにとってどのような問題点があるのでしょうか? その点について今回は少し整理してみました。

■人月とは何か

「人月」について誤って認識している人々が多い。人月とは見積りとスケジューリングに使われる仕事の単位である。「コストは実際に人数と月数の積に比例する。が、進捗はそうではない。したがって、仕事の大きさを測る単位としての人月は、疑うべき危険な神話なのだ。人月とは、人と月とが互いに交換できるという意味だからである。」


人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない

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システム開発をした事のある人であればわかると思いますが、 3人が 5ヶ月かかってソフトウェアを実装する場合 15人月の工数といいます。では、このプロジェクトは15人投入すれば1か月で出来るのかというと、大概の場合それは出来ずに炎上する事になります。(何故炎上するかについて、今回は端折ります。)

このように人と月とを互いに交換は出来ないのですが、人月という言葉がこれを誤解させているという事が「人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない」という本で約40年も前(最初の刊行は1975年)に指摘されてます。

こういった問題が「人月」という表現には含まれている訳ですが、これ以外にも「人月」の問題点があります。それは「人月商売」という時間切り売りモデルについてです。

■人月商売はITエンジニアの価値を低下させる

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Photo by Kamil Porembiński

「人月商売」がエンジニアにとってどのような問題点があるかというと、エンジニアの価値を低下させる事になってしまう、という点です。

端的に言うと、「人月」で見積もりを出しているという事は、すなわち自らの価値を、提供価値に対して値段を付ける「知識集約型」ではなく、稼働に対して値段を付ける「労働集約型」へと貶めてしまっているからです。

ITの良い点の一つとして、ルーチンワークをプログラミングで自動化できる点があります。一度システム化してしまえば人の代わりに永続的に価値を生み出し続けられるメリットがあるわけですが、労働集約型モデルで働いていると、永続的に生み出される価値に対する対価は得られず、何人月で作ったかという時間の切り売り部分にしか対価が支払われません

これはどう考えてもITエンジニアのもたらす価値の安売りであり、自らの価値を下げていることに他なりません。

■ITが属する産業型とは

この問題をもう少し掘り下げて考えていくため、ITビジネスが属する産業型について考察してみたいと思います。まず大きく産業型を分けると下記の三つに分ける事が出来ます。

労働集約産業

機械化、自動化が難しく、人間の労働力による業務の割合が多い産業のことを言います。例えば飲食業や人的なサービス業などが代表で、単純労働の提供が収益の源泉となる産業です。かつては製造や建築なども労働集約型産業と言われていましたが機械化が進んだことで労働集約型でなくなってきています。

資本集約産業

大きな設備投資を要する重化学工業や装置型産業など、労働力より資本設備への依存度が高い産業のことを言います。製造業や鉄鋼、石油、化学などが代表です。事業を立ち上げる際に工場を作ったり、大きな設備が必要な装置産業など資本の力が収益の源泉となる産業です。

◆知識集約産業

研究開発,デザイン,専門的判断など高い知的活動が収益の源泉となる産業の事を言います。コンピューター、航空機、コンサル、ソフトウェア開発やファッション産業などになります。

※これらの分類は収益の源泉をどこに重きが置かれているかを端的に表すためのものです。本エントリでも収益の源泉をどこにおいているかという意味合いで、上記の分類を使っています。

IT産業でも、取り扱っている内容によって収益の源泉は異なります。ITであればなんでも知識集約型のように考えてしまいがちですが、人月商売をしているSIerは明らかに労働集約型です

■人月商売のメリットとデメリット

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Photo by Sebastiaan ter Burg

人月商売、労働集約型のSIerは良くも悪くも時間を切り売り商売なので、時給で働いているアルバイトとモデル的にはあまり変わりません。

細かく見ると、もちろん時給の契約ではなくて「事前に定められた成果物を納品してその対価を得る」という請負契約となっていると思いますが、ベースとして人月で見積もっている時点で、時間単価で計算しており、そこから生み出される価値は無視される仕組みです。

例えばあるWEBサービスでユーザーのマイページに、1行のお知らせを出す機能を2人日で付けたところ、毎月の利益が120%に伸長したとします。この機能の価値は2人日の価値なのでしょうか?それとも利益が120%伸びた部分なのでしょうか? 

作る部分だけにフォーカスすれば2人日の価値ですが、事業が生み出す価値にフォーカスすると、利益が伸びた部分(120%×それが続いた期間)が価値となります。ベースの利益が1,000万円/月だとすると、改修により1,200万円/月に伸び、それが1年間づついたと仮定すると、この機能の改修の価値は2,400万円になります。

上記の例は端的な例であり、もちろん事業には様々な人が関わるため、作った人だけがその価値を生み出しているわけではありません。しかし、「組織全体として作る部分だけだけを行い、その作る事にかかった人月の対価だけをもらう」のか、「サービスやプロダクトを事業として取り組み、事業として生み出した価値を対価として受け取る」のかという事業モデルの違いは、天と地ほどの差があります。

人月商売をしていると、商売の構造上「見積もった金額の中でシステムを作る事」だけにフォーカスが絞られてしまうため、結果的に納品する事が目的になり、作ったシステムがどのように使われ、どのような価値をもたらすかという部分はないがしろにならざるを得ません。それは極論すると誰も使わないシステムでも納品できれば売り上げが立つためです(そういう事例を何件も見たり、経験したことがありますが。。)

価値を生み出さないシステムを作っても納品すれば売上げが立つため、エンジニア個人にも価値を生み出す能力が身に付かない構造になってしまっています。

言い方は悪いですが、SIerの人がどんなに「ビジネスを加速させる云々」という事を言っても「納品したシステムが生み出す価値に責任はない」というビジネスの構造上、頑張ってもそれは努力目標にしかなり得ません。ビジネスを加速させなくてもお金になるのです。

当たり前ですが、SIerユーザー企業がそのシステムでどんなに儲かろうとも、自分たちの出した見積もりを超える作業をしたら赤字になります。逆に言うと、瑕疵以外では、納品したシステムによりユーザー企業がどんなに赤字が出ようとも、その責任を追う必要が有りませんので、リスクは低い訳です。

人月商売にとって、プロジェクト開始前の課題解決案提示は受注するために非常に重要ですが、プロジェクトを進める中で見えてきた本質的課題への解決には意識が向かわず、納品する事に集中する力学が働くので、発注者と受託者は向いている方向が異なってしまいます。本質的価値を追求する力学が働かないモデルなのです。

もし仮にSIerの作るシステムが、常にエンドユーザーに対して「お金を払ってでも使いたい」というような高い価値を提供できるのだとしたら、自社サービスとして開発を行った方儲かる、という事になります。

つまりSIerは「自ら投資しサービスやプロダクトを作り上げ、それを販売して利益を上げる」というリスクは背負わず、作る部分にフォーカスし「納品したら売上が上がる」というリスクの少ない「労働力の提供」に絞ったビジネスを行っているのです。そのため、労働集約型で利益率は低いが安定した仕事となるわけです

官公庁や銀行のシステムなどは、今後なくなる事はないと思います。そしてこれらのシステムは巨大な為、SIerしかこなすことはできないため、SIerは今後もこれらの仕事を受ける立場として必要な形態だと思われます。

しかしこれまでの説明のように、人月商売のビジネスモデルは、基本的にエンジニアの生み出すシステムやその価値は評価せず、労働時間しか評価しない形態だという事は認識しておいたほうが良いでしょう。またSIerは大きな規模の開発が行なえる事に価値があるとも言い換えられるので、構造的に個人に高い技術力もバリューも必要ないため、価値を生み出す力が付かない環境とも言えます。

■知識集約型装置産業のほうがエンジニアの力が生きる

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Photo by Daniel Cukier

SIerとは逆の立場の事業主(ユーザー企業やWebサービス提供企業)はどの様な立ち位置でビジネスをしているかというと「自ら投資しサービスやプロダクトを作り上げ、それを販売して利益を上げる」というリスクを取ったビジネスをしています。

高い価値のあるサービスやプロダクトを生み出すという行為は、常にリスクが伴います。「これは当たる!」と思って始めたサービスが大ゴケしたりすると、売上が立たないばかりか、制作にかかった費用も失う事になります。しかし価値のあるサービスやプロダクトを生み出せれば、労働時間とは関係なく、より多くのリターンが期待できることになります。

つまり「労働力の提供に価値はなく」、「市場が求める製品を提供する事に価値がある」ため、極端に言うとどれだけ働いたかは関係ないビジネスモデルです。

リスクを受け入れ価値を生み出していく行為は、先に投資が必要という意味では資本集約型の性格もあり、事業アイデアや商品アイデアによって価値が変わるという意味で知識集約型でもあります。またソフトウェア産業は、システムという装置を作り、その装置により利益を上げるという意味では知識集約型の装置産業と言えます。

ソフトウェア産業の中でもWebは、工場を作るとか、遊園地を作るというような従来の装置産業に比べると圧倒的に低コストの投資で済み、スモールスタートが可能になっています。工場はβ版で稼働する事は出来ませんが、Webサービスはβ版で稼働する事が可能です。

またWebは市場もグローバルに広がっているため、リスクが少なく始められるわりに市場が大きく、システム化、自動化によるスケールメリットが非常に大きいのです。

つまりエンジニアが作るシステムの恩恵が、Webによって非常に広い世界にもたらされるようになった訳です。これは単純にシステムの価値と、それを作るエンジニアの価値の増大を意味します。モデル化して話をすると、100円の価値のアプリが1,000人が使えば10万円の価値ですが、100万人が使えば1億円の価値という事になります。

労働集約型における労働時間内での生産性の向上を考えると、どんなに頑張っても20倍程度の違いしか出せませんが、優れたシステムは、場合によっては数千倍から数万倍、数億倍の違いをもたらすことも可能です。

ただし、知識集約型の装置産業を目指す場合は、高い技術力と常に勉強する姿勢が求められます。たとえ設計を担当する事になっても、SIerとは異なり「コードが書ける力」が求められます。(paizaスキルテストで、少なくともランクBぐらいは軽く取れる技術力は必要です)そういった意味では厳しい環境で有る事も確かです。

現在ITエンジニアはこういった可能性を秘めた世界に居るわけですが、それを労働時間換算で価値を規定しまう事は、自らの可能性を閉ざしているように思えてなりません。

■まとめ

冒頭にも書きましたが、ITエンジニアの強みは、自動化、システム化等により、価値を生み出す装置を作り出せる事です。Webはその装置をリスクを低く始められ、かつグローバルの広い市場にダイレクトに届ける事ができるため、価値のレバレッジが効きます。それはそのままエンジニアの価値増大につながっていきます。

しかし人月商売では時間の切り売りなので、システムが生み出した価値の対価はエンジニアにほぼ還元さず、エンジニアの価値を下げてしまいます。またエンドユーザーに向けて価値を生み出す構造になっていない為、エンジニアとしても価値を生み出すプロダクトを作るスキルが身に付かない構造です。

もちろん時間の切り売りは換金性が高いため安定性があります。ただし、エンジニアの持つ「価値を生み出す装置を作る事が出来る」という能力を考えると、Webサービスなどの知識集約型の装置産業を目指した方が、厳しくともやりがいの有るエンジニア人生が送れるのではないかと思います。

今「世界を変える力を持っているのは誰か?」と考えたときに、間違いなくITエンジニアはその中に含まれるのです。




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