こんにちは。倉内です。
「DX白書」は、これまでIPAが発行していた「IT人材白書」「AI白書」を現代のIT業界の流れに合わせ、人材、技術、そして戦略の要素を統合した形で2021年10月11日に新たに発刊されたものです。
第1号となる「DX白書2021」のテーマは「日米比較調査に見る」です。「米国のほうが進んでいるんだろうな…」という漠然としたイメージに対して、数字で現実を叩きつけられたとショックを受けた人もいるかもしれません。
ただ、日本国内においてはコロナ禍でのIT活用も追い風となって着実に進んでいる部分もあり、また米国とは抱えている課題が異なることも伺えます。
そこで今回は、「DX白書2021」を読み解きながら日本のDXへの取り組みの現状と問題点、そして解決策についても考えてみたいと思います。
なお、本題に入る前に「そもそもDXって何?」という方は、以下の記事でお伝えしていますのでよければご参照ください。
日米のDXの現状を知り課題を把握する
DX取り組み状況の把握
全体
まずは日米企業のDXへの取り組み状況を把握しておきましょう。「DXを全社戦略に基づき取り組んでいるか」に対する回答は以下のとおりです。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(p.22))より
「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」、「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」、「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」を「取り組んでいる」としたとき、日本企業は55.8%、米国企業は79.2%と差が出ました。
「取り組んでいない」と答えたのが、日本企業33.9%、米国企業14.1%というのも分かりやすい結果です。
ただし、母集団の数に差があるためその点はご留意ください。
業種別
つづいて業種別の取り組み状況を見てみます。やはり業種によって取り組み状況はかなり異なります。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(p.23))より
特徴的なのは、「製造業」と「流通業、小売業」における日米の差でしょうか。特に米国では「製造業」で非常にDXの取り組みが進んでいることが分かります。また、米国では「情報通信業」の実に95%がすでにDXに取り組んでいると回答しています。
米国がなぜここまで進んでいるかについて考えてみます。JETROが2020年9月に公開した資料を参照すると、2014年には「DXを実行して効果をあげる企業が出現」と書かれています。そこで、次は開始時期に注目してみましょう。
DXの取り組み開始時期
前述の質問で「DXに取り組んでいる」と答えた企業が、いつごろから取り組みを開始したのかを示す図を見てみると、米国企業の53.4%が「2016年以前」より取り組みを始めています。一方、日本企業がもっとも高い割合を示したのは「2020年」で31.7%でした。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(p.24))より
この結果から、そもそも日本企業と米国企業では少なくとも5年ほどのタイムラグがあると言えそうです。
日本では8割以上の企業がここ数年、約4割にいたってはここ1年でようやくDXというものに取り組み始めたという状況(2021年時点)です。この点は以降のデータを読む上で知っておいたほうがよいと思います。
組織的なDX推進ができているか
日米間の差がもっとも顕著に現れているのが、企業組織としてDXに取り組む姿勢があるか/ないかという観点で見たときの結果でしょう。
以下の調査結果のいずれも日本企業は米国企業に比べて「どちらともいえない」「ない」というネガティブな回答の割合が非常に高いことが分かります。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(pp.50-51))より
この結果が示すのは、日本企業ではまだまだ組織的にDXに取り組む体制を取れていないということです。
DXとは単なる業務改善ではなく、また、現場やIT部門単体でおこなうものでもありません。経営層も含めて組織一体となり、
- 経営課題をデータとデジタル技術を活用していかに解決していくか
- デジタルを活用することでまったく新たなビジネスをいかに生み出すか
という2つの視点を持って進めていく必要があります。
IT部門が主導するとしても、経営層や現場と協力して推進していけるよう経営層自らがマインドや環境を変えていかなければなりません。
DXに取り組んだ成果
次に、設定した目的に対する成果の状況を見てみましょう。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(p.27))より
米国企業は「成果が出ている」と回答したのが90.1%にのぼり、「分からない」とする企業は2.4%にとどまりました。
一方、日本企業は「成果が出ている」は49.5%にとどまり、27.9%が「分からない」と回答しています。さきほど見た開始時期を考えると悪くない結果と捉えることもできますが、取り組みへの評価が適切になされていない可能性もあります。
そこで現状把握の最後の項目として、DXを推進する人材に対する評価についての調査結果を見てみます。
日本は「個」に期待し、米国は「組織」で取り組む
さきほど、日米間でもっとも差が現れているのが、組織的な取り組みの有無だとお伝えしました。
そこでここからは、その点によりフォーカスして「なぜ日本企業は組織的な取り組みが遅れているのか」について、より詳しく見ていこうと思います。
リーダーにあるべきマインドおよびスキルの違い
DXによって企業変革を起こすには、それを推進するリーダーが欠かせません。日米企業はリーダーに何を求めているのかを見てみましょう。
(出典)IPA「DX白書2021」(第3部 デジタル時代の人材(p.91))より
日本企業で割合が高い項目は、「リーダーシップ」(50.6%)、「実行力」(48.9%)、「コミュニケーション能力」(43.8%)、そして「戦略的思考」(43.4%)となっています。
対して米国企業では、「顧客志向」が49.3%ともっとも割合が高く、次いで「業績志向」(40.9%)、「変化志向」(32%)、そして「テクノロジーリテラシー」(31.7%)が重視されている項目となります。
上位に入ってくる項目がまったく違うのは興味深いですよね。中でも特に日米企業間で差が大きいのは「実行力」と「テクノロジーリテラシー」です。「実行力」を選択した日本企業は48.9%にのぼり、一方米国企業は19%にとどまりました。
逆に「テクノロジーリテラシー」は、米国企業は31.7%、日本企業は9.7%という結果でした。この項目の割合の低さは、ITリテラシーの把握状況を見ると分かりやすいと思います。
(出典)IPA「DX白書2021」(第3部 デジタル時代の人材(p.105))より
日米企業では、リーダーに求めるマインドおよびスキルが大きく違うようです。
人材の「量」「質」確保の方法の違い
つづいて、DXを推進する人材の「質」と「量」の確保の状況について見ていきます。
これについては、日米ともに「大幅に不足している」と答えた企業が2~3割と比較的近い結果でした。「やや不足している」は日本企業のほうが多かったのですが、米国でも半数の企業は不足感を感じているという結果が出ていました。全体・職種別・企業規模別の確保状況については、「DX白書2021」(第3部 デジタル時代の人材(pp.92ff))をご参照ください。
ここではその不足をどのように補おうとしているかに注目したいと思います。
(出典)IPA「DX白書2021」(第2部 DX戦略の策定と推進(p.54))より
上記のグラフから、不足している人材の確保の手段として日米企業で差があるのは、
- 外部の専門家との契約(コンサルタントなど)
- 外部採用(中途採用など)
このふたつということが分かります。
ただ、米国企業は「社内人材の育成」も決して低い割合ではありません。よって外部リソースの利用と社内人材の育成を両立していると言ってもよいでしょう。
一方、日本企業は「社内人材の育成」により力を入れており、現時点では特に社外の専門家を活用するまでには至っていないようです。
社員の学び直し機会提供の違い
これまで他の領域で働いていた既存社員に、新たにDX推進を担う人材として活躍してもらうためには、会社としてある程度は学ぶ機会の提供や研修等での育成、そしてキャリアサポートをおこなっていく必要があります。
そこで「社員の学びの方針(学び直し)」についての調査結果を見てみたいと思います。
(出典)IPA「DX白書2021」(第3部 デジタル時代の人材(p.103))より
日本企業の「実施していないし検討もしていない」が46.9%にのぼっていることが分かります。さきほどの結果と合わせて考えると、日本では社内人材の育成に力を入れいている企業とそうでない企業の差がはっきりしているということかもしれません。
ここまでの情報から日本企業のDX推進における課題は、「個人の能力への期待が高く、組織的な取り組みが必須であるという意識が低いため、学び直しの機会やキャリアサポートの提供、および評価の基準がない」と言えるのではないでしょうか。
日本はDX推進にあたってまず何をすべきか
「DX白書2021」には、専門家の見解やDXを進めるヒントとなるコラムが掲載されています。
そのコラムも含めてDX化のポイントとして、前述の課題を解決するために特に大切だと感じた3点をご紹介します。
DXのプロセスはトップがビジョンを示すことから始まる
DXには「守り」(生産性の向上など)と「攻め」(デジタルを活用した新規事業創出やビジネスモデルの抜本的改革など)があり、今の日本企業が積極的にやらなければならないのは「攻め」のほうでしょう。
そのためには、まず企業としてDXによって何を実現したいのか、従業員(≒IT人材)に何を求めるかを具体的に示す必要があります。それができないうちは、DX推進と言ってもゴールがないのでやりようがありません。
ただし、システム開発で考えても分かるとおり、これまではあらかじめ要件があってそれを実現するウォーターフォールでやってきていたのが、正解がないものを目指すため既存のやり方を小手先で変えただけでは難しいでしょう。
ある程度走り出して、成果が出始めれば個人へ任せていくというのもいいと思いますが、今の日本の現状ではまず組織的に取り組むことが不可欠です。
(出典)日本企業に求められる「攻めのDX」(第2部_DX戦略の策定と推進(p.42))ほか
DXとは新たな価値を創出する継続的な改革である
よくある話ですが、いまだに「アジャイル開発の手法を取り入れたからDX完了」と認識している方もいますが、それは本質的ではありません。
もしまだ企業がそういった段階にいるならば、なぜDX推進にあたってアジャイルという手法を導入するのかを理解するのが先です。
さまざまな考え方がありますが、DXは、ニーズの不確実性が高く、予測困難な状況下において推進することが求められます。そのため試行錯誤しながら進めていく「アジャイルな取り組み」が適しているということです。
DXを進めるには、まず一度決めたことを柔軟に変えていけるような、プロセス・ルールの見直しが欠かせません。それが可能になったらスピード感を持って改善を継続していく仕組みを整えていきます。
DXへの取り組みを適切に評価する
日本の取り組みについて、日米比較ではあまりポジティブな内容がなかったと感じた方も多いかもしれませんが、実は国内における過去・現在比較では飛躍的に進んだものもあります。
「パンデミックを経たIT利活用の変化」(p.73)では、リモートアクセスやWeb会議、書類・手続きの電子化について「コロナ禍への対応として導入した」と回答している企業が多くありました。特殊な状況下ではありましたが、「やればできる」ことに気づいた企業も多いのではないでしょうか。
また、「AI技術の活用状況」においても2019年、2020年調査よりもかなり進んでいます。なんと「導入している」と回答した割合は5倍に増加しました。
(出典)IPA「DX白書2021」(第1部 総論(p.17))より
DXは不確実性が高く、予測困難な中進めていくものです。こうして年単位で比べてみてはじめて分かることもあります。
すぐに成果が出ないからと言って、企業として「評価しない」と決めてしまうのはDXが進まない原因です。評価基準がないどころか、「評価対象外」としている企業はもってのほかです。
DX先進企業の多くは、個人に対する評価を顧客価値提供視点の成果で見るようにし、短期間で改良・改善をつづけ、さらなるDXの推進に活かしています。
そういったことができるようになるためにも、まずは社員のジョブ(仕事の範囲、役割、責任)を明確にして、そのうえで成果の評価基準を定めることから始めるとよいでしょう。
まとめ
「DX白書2021」をもとに、日米企業のDX取り組み状況の違いや課題、そしてそれをどう解決していくとよいかについて考えてきました。
日米比較をすると差が大きい部分もありましたが、最初に見たとおり導入時期にも違いがあり「米国企業に習う」ではうまくいかない点も多くあるでしょう。
よって今考えなければいけないのは、DXをバズワード的に扱うのではなく、自社が抱えている課題を正しく把握し、価値創出のためにどうデジタル活用していくべきかだと思います。
もしかするとDXの必要はなく、まったく別の形で問題が解決する可能性もあります。
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